1997年3月、旅に出た。
ゴールは定めず、「日本を回ってみよう」と。
目的は、日本をちゃんと見たかった、それだけ。
道案内は、1/200,000の全日本広域道路地図。
バイクにキャンプ用の調理器具と服を積み、沖縄からスタート。朝から走り、夕暮れ前には宿泊地を決め、夕餉を支度し、夜は本を読む生活。
当時の日本は今のようではなく、まだユルい、人の情けが空気に溶け込んでいるような環境で、気の向くまま、出会う人と話し、ときには軒を借りて一夜談笑し、誰にも会えなければ公園の片隅や河原、海岸にテントを張っていたものだ。
翌日の目的地が思い付かないときは夜、地図を開き、なんだか面白そうな場所を探して、日が昇ったら訪ねる。情報源は途上で出会った人たちの話が主だった。
九州、中国、四国…、当時の拠点だった近畿は一旦通り抜け、晴海から釧路まで海路。北海道で数ヶ月過ごし、大雪山に初雪の便りが届いたのを合図に、南下。
伊豆半島を走る朝、目の前に富士山が見えた瞬間に旅の終わりを感じ、そのまま約1年の旅を終わらせた。
瞳を閉じると、いくつかの地域のたくさんの風景、笑顔、味が、今もまぶたの裏に浮かぶ。四半世紀が過ぎたというのに。
旅は、想像力とセットだ。
生活の一部に大なり小なり多様なカメラがあり、誰でもいつでも、さまざまな写真を発信できる現在。加工技術も進み、なかには写真を見て現地を訪れても同じ風景に出合うことはないほどのものも、ある。
検索すれば、数え切れないほどの情報にも触れられる。動画もある。
しかし。
旅の経験者が抑揚のある言葉で口伝する、旅の記憶こそ、心躍るもの。
旅を思い出すために、進み始めよう。
この先にめざすのは、記憶を記録すること。
次の世代、その次の、そのまた次の世代へと、我々が生まれ死にゆく日本というものを、伝える細い糸の一本にでもなれば。
これが、Slow Journeysの心。
〜追伸〜
記事には、たいした写真はありません。加えて、読んでいただける方の想像力を呼び出す程度の文字を載せています。
記事の行間、空間、いろいろなところに目を向け、気になれば検索。
そうして得られる想像の旅が、やがて脚を動かすほどの衝動となれば幸いです。
考えてみると、隣町に動くだけでも、それは旅。
この気持ちで、これからも各地を訪ねゆきます。
では、Cool runnings!
橋本 勲