旅の味

新田川の馬モツ煮込み

富士の麓、夜道の先の赤身とモツ

山梨県富士吉田市は、名峰富士の裾野に拡がる町だ。ここでは明治期より馬肉が食べられてきた。
由来はいくつかあるようだが、そのひとつが、富士山信仰。江戸時代に入り、富士山信仰が盛んになった。山麓の町・富士吉田には参拝者を案内する御師たちが暮らし、遠路はるばる詣でた者を泊める「御師の宿」も多く並んでいた。
明治期以降、御師の家を朝出立した参拝者が富士山へ登るときに利用していたのが馬車だった。登山口まではずっと上り坂が続くため、馬に揺られながら金鳥居を抜け、聖なる山を目指したという。
「ケガをして動けなくなる馬もいてね、その命をありがたく頂戴していたみたい」とは馬肉店の主人。
だからだろうか、同じく馬肉の消費地で知られる熊本とは違い、この町で食べる馬肉は赤身だ。そしてもうひとつ、モツ煮込みがある。
それを目当てに、織物産業で栄えた時代に大いに賑わったという下吉田の西裏という地域へ向かう。
往時の面影はそんなになく、明かりがポツリ、ポツリと灯る路地を歩く。ひとつだけ焼けに明るい看板「味の店 新田川」。聞けば東京・深川で食べた牛モツに触発されて牛モツ煮の店を始めた先代が、数年経ち、肉屋のススメで馬のモツに変えたところ、大はやりになったとのこと。富士吉田の馬のモツ煮込みは、新田川から始まっていた。

グツグツ、ぐつぐつ。大鍋を泳ぐ串

料理はモツ煮込みと馬刺し、そして時価のトマト、キュウリ、御新香。新田川は、10人も入れば満席となってしまう小さな店だ。入口横のカウンターには大鍋があり、主人はその前を離れることなく、時折かき混ぜる。そのたびに顔を出し、泳ぐ串。フワ、胃袋、腸。扱うモツは10種類ほど。一串80円と安価だ。
コクがあり、甘いたれは、味噌と砂糖、それに長年に混み続けてきたモツの脂があわさったもの。ただよう香りだけでもグラスが進みそうだ。
モツは部位ごとに食感も異なるので、まずはお気に入りを探すべく、お任せで全種類を頼む。一つひとつ噛みしめ、一巡を終え、二巡目は口に残る余韻に従って串を頼む。
気がつけば軽く20串を超えていた。
箸休めに馬刺しを頼んだ。厨房奥から、奧さんが皿に盛った馬刺しを持ってくる。……分厚い。
ねっとり、むっちり、生の馬肉の食感を楽しむ。そしてまた、串に戻る。

味の店 新田川
山梨県富士吉田市下吉田796

2019年10月

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