旅の味

これがいいナ。湯浅米醤の一汁二菜「おむすび定食」。

再生された旧湯浅駅舎へ。

 

金山寺味噌蔵を訪ねて和歌山県湯浅駅に降り立った、お昼少し前。
調べてみると、駅の周辺にいくつか食事ができるところがある。刺身や煮魚…、海沿いの町だからそんなラインナップになる。
決め手に欠けて、ん〜と悩みながら駅舎を出ると、隣に旧湯浅駅の駅舎があり、そこがカフェというか食堂というか、とにかくご飯が食べられる場所だった。

旧湯浅駅舎は、JRがまだ国鉄だったころの昭和2年(1927)に誕生した。平成31年(2019)に新駅舎の供用が始まり、役目を終えたのだが、地元での保存の声を受け、JR西日本から湯浅町に譲渡されることとなり、令和3年(2021)、歴史的風致形成建造物に指定された。
その後、地域の人が集える場所として再活用するための整備が行われ、令和5年(2023)5月に、食や湯浅の簡単な物産紹介の場として甦った。

瀟洒な佇まいは、昨今の昭和レトロブームでも話題に上がりそうなほど。
建物のメインとなるのが、食事の提供や特産物の販売をする「湯浅米醤(ゆあさべいしょう)」だ。
店内の古びたイス(良い意味で)は、地元の中学校で使われていたものだそう。
間もなく昼。メニューを選んでいる間に席がなくなることを割けるために、湯浅の町を眺める窓の正面に陣取った。

 

 

おにぎり(日替わり)2個、味噌汁、小皿、漬物。

 

財布を手に、料理を選びにカウンターへ。
地元産の干物定食が人気なようだが、惹かれたのはおむすびだった。
日替わりで、この日は、しおむすびとこぼれ釜揚げしらす。
しらすは和歌山県でも多く獲れる海産物で、生しらすの水揚げ量は和歌山市加太が多く、釜揚げしらすは湯浅町が和歌山県内でもっとも多い。
釜揚げしらすの、あの半生のような食感は好みだ。しかも先行して注文した人のおにぎりを見ると、釜揚げしらすの上に和歌山産の梅干しものっている。

10分くらい待ち、完成した定食を受け取り、席に戻る。
おむすびは握りが柔らかめ、小皿の菜の上に削り節。漬物の皿には、厚切りのたくあんと、おかず味噌とも言われる金山寺味噌がついていた。
米はもちろん地元産。金山寺味噌も、味噌汁の味噌も、言わずと知れた湯浅のものだ。
お腹の空き具合は60%程度。もう一品あってもよかったかな、と感じたが、
こぼれ釜揚げしらすのおむすびを頬張り、しおむすびは金山寺味噌をのっけて食べ、
熱々の味噌汁を啜り、食後感は十分に満足。

握りが優しすぎて、個人的にはも少しぎゅっとなっている方が嬉しいかな。

シンプルな一汁二菜、窓の外に見える街の静かな景色と、
どこに向かおうかな、とキョロキョロしながら歩いている人の姿。

旅感である。

 

 

旅人をもてなす食事って何だろう。

 

各地に足を運ぶと、ほとんどの場合、ご当地の味に出合う。
まぁ、それを探しながら方々を歩いている、ということもあるが。

きちんと商品化されたものもあれば、地域の人たちの手を感じられるものもある。
皿から溢れんばかりの豪快かつ高価なものもあれば、
今回のおむすび定食のように、シンプルにまとめられたものもある。
地域の味を、地域外の力が提供している場合もあるし、
地元の方々が共同出資して営んでいるところもある。

いろいろだ。

 

大切なのは、食後にその町が感じられるかってところだと個人的には思う。
おいしい出逢いをして、その商品を買えるお店へ足を運ぶのもあり、
地域の歴史に根ざした食事から、その町の成り立ちを知るために散策するのもあり。

感謝の「いただきます」のあとは、行ってきます、のかわりに「ごちそうさま」と
言えたら、なんだか楽しさが増すなぁ、と思う。

 

 

湯浅米醤

関連記事