旅の味

一養軒のローストビーフ

洋食とウイスキー。どちらを主として店に入るか。

 

京都は古くから続く洋食店が知られている。オムライスだったりクリームコロッケだったり、名物もそれぞれ。
しかし、佇まいこそ名物、と言える店はここだけではないだろうか。一養軒。

大正11年(1922)、木屋町通に誕生した。
その後先斗町に移転するのだが、通り沿いではなく、路地の奥へ、なぜか。
ちょっとほろ酔いで向かうと、曲がり角を大抵間違えて、しばらく探すことになるのだが。

 

時が止まっているようで、いない。

同店は夜だけの営業である。メニューは洋食である。テーブルがいくつかある店の奥にはストレートのカウンターがあり、まっすぐそこへ向かう人もいる。つまり食事に行くか、ウイスキーを楽しみに行くか、気分次第なのだ。

並んでいるウイスキーは、ほぼNIKKA。風の噂で京都初のニッカバーだと聞くが、それを現主人に尋ねると、「創業者がニッカウヰスキーを好きだっただけですよ」。

訪れる人の多くが、まずはニッカハイボールを頼むというので、いただく。さてさて、何を食べようか。

その前に、少し照明暗めの店内を見回す。柱も壁もテーブルも、クロスも、相応の年季が入っている。時が止まっているようだ、と思いかけたが、いやいや待て、そろそろ1世紀経とうとしているということは、時がここでは確実に動き続けていると考えた方がいい。
カウンターの右奥には、厨房用エレベーターがある。実は地下に厨房があり、専属のシェフが待機してくれているそうだ。

訪れたのはコロナ禍自粛で、さすがの先斗町でもぱったり客足が途絶えていた2020年9月初頭。私以外客はいないし、「今日は誰も来ないんじゃないかと思っていますが」と主人も言うが、それでもシェフは、待機している。

それは、ちゃんといただかねば。

 

腰掛けたまま、「バーのあとにレストラン」を。

メニューブックを見せてもらうと、前菜、スープ、魚類、卵類、ステーキ類、ロースト、アントレー、サラダ、野菜、サンドウィッチそれぞれにある。
「御定食」つまりディナーコースも。

お腹はそんなに減っていないのだ、しかしお肉とご飯がほしいのだと告げてみたところ、勧めてくれたのはローストビーフとピラフだった。ピラフはメニューブックにない! と、カウンターに立つボードに「エビライス」があった。これのことらしい。

言われるままにオーダーし、しばらくののち。

まずはエビライス。きちんとムチッとした米の粒を感じ、以外とハイボールにも合うのね、なんて考えながら食べ進む。そこへ運ばれてきた、ローストビーフ。
というより、ビジュアルは薄めのビーフステーキだ。
が、これはローストビーフ一養軒風。ややレアな肉をニッカのロックで、との想定は捨てるしかなかった。

和風なソースがかかったステーキ、もといローストビーフ。サラダもたっぷり。食べ半ばのエビライスとセットで、立派な洋食ディナーとなってしまった。

 

一養軒
京都府京都市中京区木屋町通四条上ル鍋屋町211

2020年9月

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