旅館のアイデア料理が県のご当地料理に。
山口県での名物料理のひとつに数えられる「瓦そば」。今では下関市を中心に萩市、長門市、美祢市、山口市、岩国市で食べられる。
カンカンに熱した黒い屋根瓦に茶そばを乗せ、牛肉と錦糸卵をトッピング。輪切りのレモンと紅葉おろし、刻みネギや海苔も添えられており、これらは温かくした濃いめの味のおつゆに入れ、そこへ茶そばを浸していただく。
上から食べるともっちり、下はしっかり焼けてパリッとした食感が楽しめる。
上のもちもち麺を瓦に押しつけて自分好みの焼き加減で食べることもできる。
薬味を最初は入れずにいただき、途中で加えて味変するのもいい。
自分は、シンプルな塩味の牛肉を一度つゆに浸して瓦で焼き、ちょこっとだけ食べるのも気に入っている。
見た目、食べ進む楽しみと、エンターテインメント性溢れる料理だ。
各所で食べられるといっても、バリエーションはあまりない。それもまた、面白い。
発祥は、種田山頭火などもお気に入りだった、下関市の奥手にある川棚温泉。
そこの旅館で、昭和37年(1962 ※昭和36年とも言われている)に誕生したという。
元祖と言われる「瓦そば たかせ」の創業者がその前年に川棚温泉でホテルを開業し、宿の名物料理として考案した。
しかし数年後にホテルは廃業。瓦そばもその時一度姿を消すのだが、川棚温泉を訪れたことのある人々からのラブコールで、専門店として復活させた。
はじまりは、西南の役の逸話だった。
800年以上の歴史があると言われ、江戸時代に長府藩主専用の湯殿が設置されたことから湯治場として知られるようになった川棚温泉。
その治安を守るため、当時は高価だった瓦の使用が、川棚温泉の旅館では特別に許可されていた。だから、瓦はあった。
あるとき「瓦そば たかせ」の創業者は、地域の古老から瓦に関する逸話を聞く。
——西南戦争の際には、熊本城を包囲した薩摩軍が長期戦の最中に瓦を焼き、その上で野草や肉を焼いて食べていた。
これは電撃を受けるような話だっただろう。この話にヒントを得て、川棚温泉で瓦そばは生まれることとなった。
日本では縄文の昔から、石を熱しての調理が行われてきた。
桶に魚介を入れ、そこへ熱した石を投げ込んで煮込む秋田県男鹿半島の料理など、各地に伝わっている。
瓦を鉄板代わりに使えば、確かに調理が可能。閃きの妙である。
当初は古民家や寺院の解体時に出た瓦を再利用していたが、それらが減少したため、近年は特注の石州瓦が使われているそうだ。最近の屋根瓦は塗料が塗られており、調理では使えないため。古瓦で焼かれたそばの見た目も、なんだか、よかったんだろうなぁ。
観光向け料理が家庭の味になり、地域に目が向く
瓦そば、現在は家庭でも調理されるようになっている。
ホットプレートにどかっと茶そばを盛り、薬味を乗せ、熱する。人が集まる場にももってこいだ。茶そばとつゆがセットになった商品が発売されたのが、普及の要因。
面白いな、と思って調べてみると、同じような例は日本各地にあり、北海道名物のジンギスカン(専用のたれが発売されたことで普及したようだ)、岡山県のえびめし(学校給食ででるところもある。全国学校給食週間にほかの地域でも献立に登場していた)などが代表格。
訪れたことのない地域の名物料理をほかの都道府県で食べることにより、その地域への興味が湧くと、なんだか嬉しいことではないか。
家で、家族で、瓦そばの瓦なし版をワイワイと食べたくなった。