旅の味

布教の歴史が料理で残る。富山でいただいた「いとこ煮」。

家庭の味=地域の味=伝統

 

富山県砺波市に、アズマダチの家々が点在する散居村のある砺波平野を訪ねた。
この地はまた、米どころ、豊饒の地でもある。

文化庁の取り組みである「100年フード」に認定されている「よごし」は代表的な地域の料理で、
野菜を細かく刻んで味噌で味付けし、炒りつけたもの。
夜に作り置きして翌朝いただくから、夜越し=よごしである。
使う野菜が限定されているわけではなく、家庭ごとに様々なよごしがあるそうだ。
もちろん砺波市に限定したものでもなく、市を含む近隣地域での食文化だ。

ほかにも、おすわい(すばい)や大根めし、ゆねし、白和えなど、
料理名を聞くだけで素朴さを想起する料理が多い。
その中に「いとこ煮」がある。
今回いただいたのは根菜のいとこ煮。
醤油とみりんと砂糖で煮た、大根、人参、牛蒡、里芋、こんにゃく、厚揚げ。

そこに、小豆が入っていた。

 

親鸞さんの好物だったからか、好物が入っていたからか。

 

いとこ煮は初見だった。
もっとも、同じような具材、味の料理は食べたことがあった。名前は違ったが。

調べてみると、いとこ煮の名の由来には諸説あり、
・似たような根菜類を使う=いとこのよう、
・野菜別にめいめいに煮る=姪々=姪同士はいとこ、
・火が通りにくい順に野菜を追々煮る=追々=おいおい=甥はいとこ、
・親鸞聖人の遺徳を偲ぶ=威徳→いとこ(と訛った)。
謂れに諸説あるのは世の常だが、いとこ煮に関するこれらの説は、どれもほっこりとする。

今回料理をいただいた際に聞いたのは、親鸞聖人の遺徳を偲ぶというものだった。
親鸞聖人は小豆が好物だったとのことで、遺徳を偲ぶ料理だから小豆が入っているのだとか。
富山県では親鸞聖人の命日に行われている報恩講の際の料理(お斎)でいとこ煮が提供され、
醤油ベースのほかに味噌味もあるようだ。

調べてみると実は全国に転々とこの料理は分布していた。
北は秋田県、東は東京都の伊豆大島、南は大分県まで。
そしてやはり、いくつもの県で、浄土真宗に関わりがある。
となると、親鸞さんきっかけで好物を入れた料理が生まれたのか、
各地の農村で食べられていた料理にたまたま小豆が入っていたことで、
親鸞さんの謂れが生まれてきたのか・・・。

 

郷土料理はなぜ、地方で似たものが出るのだろう?

 

いとこ煮が各地にあることと同じように、日本各地の郷土料理には、
地域が違うのに味も見た目も料理名も同じ、もしくはそっくり、というものが結構ある。

たとえばいとこ煮は、根菜+小豆で、全国に分布している同料理は、基本的には同じ形態。
根菜がカボチャだけのところもあるが、
小豆が入るという個性が同じというのは、注目に値するのではないだろうか。

もしかしたら仏教の伝播に関係があるのかもしれないなぁ。
工芸や美術などさまざまな分野で、全国的な広がりの歴史的背景に宗教があったりもするから。

初めて伝わってきたときに、それを食べた人はどんな風に思ったのだろう。
“おっ、これはうちの地域でも同じ食材で同じ味に出来るから採用!”とか・・・。
そんなことも思い浮かべ、ちょっと楽しくなる。

そう、地域の郷土料理は、食べるだけでなく想像も楽しいのである。
そして、なんだか嬉しいのだ。
だから、どこかへ出かけたら、その土地の料理を探してしまう。

 

いとこ煮

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