何を味わいたいか。そういう選び方を教わった。
北海道三大ラーメンのひとつ・旭川ラーメン。醤油ラーメンが主で、全国的に知られ、名店と呼ばれる店も多く、第二次世界大戦後に創業し、暖簾を守り続けている店も数多ある。ある調査では、人口10万人以上の都市におけるラーメン店の人口比率が全国有数ともされているほど。市内のラーメン店は、200店近くもあるようだ。
しかしそんな土地であるから、一度の訪問で旭川のラーメン店をいくつも回れないため、さて、どこへ行くべきかと悩むのだ。
ダブルスープにラード、低加水の縮れ中細麺。これがスタンダードだと教わったが、とはいえ店それぞれにこだわりがあり、味の違いもあることは想像に難くないため、やっぱり悩む。最終的には地元の人に聞くしかない、との結論に至るのだが、いざ聞いてみると「何をメインで味わいたい?」との問いが返ってきた。
満たしたい気分の数だけ、味わいがまちにある。
要するにスープなのかチャーシューなのか、はたまたサイドメニューなのか、といったところが、店選びのポイントとなるらしい。
ちなみに現在の旭川ラーメンがダブルスープなのは、このまちが物流拠点であったため内陸であっても北海道の良質な海産物が容易に入手できたことにあり、ラードを入れるのは、スープの表層にラードの膜が張ることで冷めにくくなるからだと聞いた。
また、このまちのラーメン店の多くに「野菜ラーメン」というメニューがあるとも。モヤシに玉ねぎ、白菜といった野菜炒めの具材に使うような野菜を炒めてのせたものだ。
どんな料理にも生まれた土地ならではの育ち方があるもので、地域柄の話は興味深いが、かといってそれがどこかひとつの店の特徴ならば足を向ける方向はすぐ定まるのだが、各所がそうであるならば、やはり、店を選べない・・・。
すると目の前の御仁が「今日はチャーシューをしっかり食べたい気分なので、その店に行かないか」と誘ってくれた。
気分・・・。ほかにはどんな気分が? 御仁の中では、スープを飲み干したい、麺を替え玉で食べたい、野菜、といった気分が日によって起こるそう。それを満たしてくれる店が必ずあるから、旭川のラーメンは飽きることがないとも教えてくれた。
まさかの1㎝厚をご婦人はペロリ。
旭川四条駅近くにある「つるや」は昭和47年の創業で、旭川ラーメンの店の中では古参に入る。駐車場台数がそこそこあることから、車でないと訪れにくい立地なのだろう。しかし昼前にもかかわらず、暖簾をくぐる人はひっきりなしだ。
正油チャーシューを頼もうとするが、隣のテーブルでまさに今ラーメンを食べ始めた老婦人2名は正油野菜ラーメンで、それが窓からの陽光に輝いて見えた。野菜は必要だナ。
正油野菜チャーシューを頼んでしまった。
1㎝はある厚みのチャーシューが5枚、その下に炒め野菜がもさっと。チャーシューは想像よりもはるかに厚く、確かに「チャーシューをしっかり食べた」気分になれる。
隣席のご婦人の正油野菜ラーメンにもチャーシューはのっており、「は〜、おいしいわね〜。スープに浸しておくと柔らかくなるからいいわよ」と片方のご婦人がお連れの方に指南しているのを聞き、こちらも慌てて、数枚のチャーシューをスープに沈める。
なるほど、噛みしめる肉感を堪能するのなら、のせられてきたままを食べる方がいいが、しばらくスープに浸しておいたチャーシューは、程よく脂がやわらかくなり、ジューシーに感じられた。
目の前のラーメン鉢にはまだまだ野菜も、麺も、スープもあるわけで、こちらはそれらとの格闘を続けていたのだが、そうこうしている間にご婦人方はスープも飲み干し、駅前へショッピングに向かった。
ラーメンで元気が出たから、あちらこちら見て回れそうだ、と。
つるや
北海道旭川市4条通19丁目左10
2022年1月
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