旅の味

港屋のちゃんぽん

人はここを「お遍路食堂」と言う。

福岡県糟屋郡篠栗町は、篠栗四国八十八ヶ所霊場が町に散在しており、3泊4日かけて札所を巡るお遍路が訪れる町だ。
場所はJR筑前山手駅前。店を開いてもう100年を超えるという。現おばちゃんで四代目。
店外の壁には丼物・定食、オムライス、チャンポン、うどん・そばと並んで、精進料理と書いてある。
おばちゃんが言うには、おにぎりだけを持って歩いているお遍路さんが昔は結構いて、その人達が休憩で寄ったときに食べられるように、と精進メニューを出すようになった。

札所寺院で聞いた話だが、昭和の頃は高台にある寺院から駅の方をみると、お遍路が大渋滞していることもしばしばだった。食堂の暖簾を遍路装束が次から次にくぐったことだろう。

メニューの定食の欄には、精進定食(森)、精進定食(林)、精進ごはん。
森と林は、森林セラピー基地の町ならでは、か。
精進ごはんを食べている人の卓を窺うと、大きな海苔むすびひとつ、煮しめ、酢の物、刺身こんにゃく、味噌汁だった。十分お腹はいっぱいになるナ。

場所柄、若い僧侶も訪れる。が、彼らが食べるのは精進では、ない。

 

鶏がらが、優しいのだった。

ちゃんぽんとオムライス。という組み合わせは、ここの常連に多い。一番人気は、ちゃんぽん。
港屋のそれは、具とは別に湯がいた、もしくは蒸した麺を入れるのではなく、麺と野菜を炒める。注ぐスープは豚骨ベースではなく、鶏がら。
「その方が優しい味やろ?」とおばちゃん。
ゆっくりいただいても麺がのびない、コショウも振っていない。
なんだかいろいろ、いい。

肉も多めだ。

 

しかしオムライスと合わせるか・・・、なんて思っていると、実はチキンライスが自慢なのだとおばちゃんは言った。
最近はそのチキンライスを使って、半熟卵のライスコロッケなんて、洋風な料理も考案した。たまにしか作らないそうだが。

それぞれの代で名物料理が誕生して、町の人や遍路が喜び、次代へ受け継がれてゆく。
米も味噌も、こんにゃくも、篠栗町産。実はそこも押している風だった、おばちゃん。話はまだまだ続く。
一人で来ても、話に巻きこまれ、どの名物を頼むかで話の内容も変化するのだろう。そうして、食堂の歴史の片鱗に客はなるのだ。

 

 

港屋
福岡県糟屋郡篠栗町篠栗2150-1

2021年12月

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