日常のとなり。

男山は、水も酒も、人々のために。

男山は、どこの酒なのか。

 

男山という日本酒がある、ということは広くに知られていて、全国に男山と名が付く日本酒が複数あることも、もちろん。
だからと言って、本物・偽物といった話になるようなことはない。
もともと男山という日本酒は、兵庫県伊丹市にあった「木綿屋」が、京都の石清水八幡宮(当時は男山八幡宮と言った)にちなんで醸造した銘柄だ。一時は将軍の御膳酒に指定されるほど名を馳せたが、次第に衰退し、幕末には他の蔵に醸造が移るも、明治半ばにはそれも終わってしまった。
これがきっかけで、なのかどうかは不明だが、全国に男山と名の付く日本酒が出はじめた。いつの間にか10銘柄以上にもなった。そのひとつが、旭川にある男山株式会社の男山。もっとも当時は山﨑酒造として北海男山銘を醸していたが、1968年(昭和43)「木綿屋」の山本三右衛門家の当代から木綿屋男山の商標や道具類を受け継ぎ、正統な後継者となったことを機に、銘から北海を外し、1972年(昭和47)には社名も男山に変更した。

酒も水も、地域の人へ。

 

前置きが長くなったが、男山株式会社は、木綿屋を継承した同じ年に本社工場の建て替えに合わせて「酒造り資料舘」を開設。ここは現在旭川の観光名所として毎年多くの人が訪れるが、実は地元の人も訪れる。それも足繁く。

目的は、水。

男山株式会社の酒には大雪山系の伏流水が使われているが、これを無料開放しているのだ。「延命長寿の水」と呼ばれているこの仕込み水を、旭川の人々は料理に飲用にと、愛用しているようだ。資料舘の前でしばらく眺めていると、水を汲みに来るのは老夫婦、中年男性、若い家族連れ、カップルまで多岐。要するに男山の仕込み水がおいしいということは、旭川市民にとって周知のことであり、水汲みも特別なことではないのだ。


しかし蔵元にとって、このように水を出し続けることは相当の費用を覚悟しなければならないはず。が、「地元の人に親しんでいただけるから」と、気にも留めない(ようだ)。
ちなみに男山株式会社の酒は濃厚甘口から辛口まで、味のバリエーションも豊富だ。これも「より多くの人が男山に親しんでもらいたいから」と蔵人は言う。

 

昔も今も、大雪山に生かされていた。

 

男山の水、旭川市内を流れる複数の川。ともに出発点は、旭川の南東方向に広がる大雪山系の山々だ。万年雪の残るこの山々はアイヌ語でカムイミンタラ(神々が遊ぶ庭)と呼ばれ、崇められてきた。
その山から人々へ届けられる恵みのひとつが、水なのである。
まちの雪が溶け、公園の緑が鮮やかになった頃、雪解け水もまちに届く。
その穏やかな表情を想像すると、なんだか優しい気持ちになった。

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