日常のとなり。

不夜城は新たな命を得て、なお立つ。神子畑選鉱場

山のあなたの、それほど遠くはないところに。

 

神子畑(みこばた)選鉱場というところが、兵庫県の中央部近く、朝来市の山中にある。隣町にはまつて戦国時代から採掘が行われていた明延鉱山があり、山を一つ隔てた神子畑も同じく戦国時代から採掘は行われていたが、しばらくして休山。しかし明治時代に入って銀の鉱脈が発見されたことから活気づき、一時は明治政府直轄となる。が、明治末期には採掘量が減り、閉山。

一方の明延鉱山では大正時代に入っても採掘鉱量が増えていたことから、閉山した神子畑鉱山は、明延の選鉱場として、新たな役目を果たし始めた。
大正8年(1919)のことだったという。東洋一の機械式選鉱場として、海外からも注目を集め、24時間稼働で夜は山中で光を放っていたことから、不夜城と呼ばれた。

しかし栄華もやがて盛から衰へ、昭和62年(1987)には明延鉱山とともに閉山した。

 

平成16年(2004)には建物の老朽化のため解体されることになるのだが、鉄筋コンクリート製の基礎やインクラインの跡は、そのまま残った。
2017年、残置物含め敷地の一部が公開されることとなる。

その姿。廃墟マニアならずとも息をのむ佇まいである。

選鉱の最終工程で脱水・濃縮が行われたのが巨大な濾過装置「シックナー」。その基礎はまるで、古代神殿のようでもある。背後の山肌にも上に向かって往時は22階層あったという建物の骨格が残り、さながら未来少年コナンで見るインダストリアの塔のようでもあり、天空の城ラピュタのようでもあり。
シックナーの巨大なコンクリート柱の奥には、かつて使われていた機械の残骸も、ぽろぽろと残っていて、これがまた、廃墟感を増長している。

近くには、かつて2000人近くが暮らした町の名残として小学校の体育館が。
賑やかな運動会、定期的に開催された映画上映会。集落全体がひとつの家族のようなものだったから、それはそれは、老若男女の弾む声が、響いていたことだろう。

現在は選鉱場の敷地と平行に流れる神子畑川の水の音が、山の中で一番大きく聞こえる。それに、山鳥の声。

 

3度目の命が始まっている。

 

敷地内にかつて集落の祭で使われた神輿などの資料展示、オリジナルグッズの販売をする「鉱石の道 神子畑交流館『新選』」があるのだが、店番的なおばちゃんは開口一番「あんた、ウーバーワールドって知っとぉ?」とこちらに聞いてきた。

若い世代を中心に人気のロックグループ・UVERworldのことだ。

おばちゃん、ファンなのか?

いやね、私は知らん人なのよ。でもね、ちょっと前にここで歌っている姿を映像にしはって、それを見た若い人がね、東京からも来るんよ〜

UVERworldは曲のPVのロケーションのひとつに、神子畑選鉱場を選んだ。それを見たファンが、聖地巡り的にここを訪れるという。訪れたファンは景色をSNSにアップする。するとそれを見たほかのひとが、何だ、何だ?とまたやってくる。

理由はどうであれ、明治大正昭和の産業遺産など興味がなくてもここへ来る。そして、その時代にほんの少しでも思いをはせる。
神子畑まで来るにはもっぱら車だろうから、ついでに近辺も探る。するとまた、何だ、何だ?にぶち当たり、新たな知見を得る。
その時代、時代でアプローチや理解の仕方は違ってもいい。つながることがキモなのであって、それが、廃墟の新たな役割なのだった。

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